私は中学・高校と短距離をやっていて、地方大会にも出ていました。2023年にフルマラソンでサブ4。そのあとしばらく走れない時期があって、最近また週2回で走り始めたところです。12月にハーフを走ります。
いま、AIにランニングコーチをやらせています。12週間、AIの指示どおりに走って何が変わるかを記録する、人体実験です。
再開して1本目を走ったあと、AIからこう返ってきました。
1本目はペースが速すぎた(5:46/km)。心拍と時計は見なくていいので、呼吸に余裕がある強さまで落とすこと。残り1本はそれだけ意識して
その日の目安は1kmあたり6分40秒〜7分10秒でした。時計を見ずに走った結果が5分46秒。目安の速い側より54秒速い。
自分では、ジョグのつもりでした。
3行でいうと
- 自分で決めて走ると、楽な日も強い日も、同じくらいの強さに寄っていく
- 中強度は悪くない。困るのは、楽のつもりで中強度を走っていて気づかないこと
- まずは会話で強さを測る。AIは「基準を決めて、後から照らす」ところを手伝ってくれる
1. 私が「ジョグ」と呼んでいたもの
振り返ると、失敗は2つありました。昔は強さを決めていなかった。そして目安をもらった今も、感覚だけでは守れなかった。
昔は、強さを決めていなかった
短距離出身で、長距離の練習をどう組み立てるのかを知りませんでした。だから「ジョグ」と言いつつ、毎回だいたい同じくらいの強さで走っていた。楽な日も、少し頑張る日も、区別がありませんでした。フルを走っていた頃も、これに近かったと思います。
目安をもらっても、感覚だけでは守れなかった
今回は違います。AIから「1kmあたり6分40秒〜7分10秒」という目安をもらっていました。それでも、時計を見ずに自分の感覚で走った結果が5分46秒でした。
1kmあたりのペース。左ほど速い
その日の平均心拍は162。年齢からのざっくりした推定では、ハーフのレースで出すくらいの心拍です。9月の昼間だったので暑さのぶんは割り引く必要がありますが、ペースのほうは言い訳ができません。
自分では気づけなかった理由
苦しくなかったからです。
苦しければ落とします。でも走っている最中、苦しさは感じていませんでした。調子がいいとまでは思っていなかったものの、苦しくないので、落とす理由が見つからない。苦しくないことと、楽であることは違う、ということに気づいていませんでした。
強さを決めていなかった。決めてからも、感覚だけでは守れなかった。
2. 中強度は悪者ではない
この記事では、強さを「会話」で3つに分けます。数字を使わないのは、同じ心拍やペースでも、人によって楽にもきつくにもなるからです。
1本目の日は会話を試していません。ただ心拍を推定の目安に当てると、私の「ジョグ」はこの表の中強度か、それより上だった可能性が高いと思います。では、中強度で走るのは悪いことなのか。調べると、そうとは言えませんでした。
どちらの練習でも、ちゃんと伸びている
市民ランナーを「楽な日を中心にする」グループと「中強度を中心にする」グループに分けて比べた研究が、少なくとも2つあります。
- 10週間の研究では、10kmのタイムがどちらのグループも改善。楽な日中心のほうが数字の上では少し大きく伸びたが、統計的に意味のある差ではなかった(Muñoz ほか, 2014)
- 8週間の研究では、2つのグループに差は見られなかった。しかも中強度中心のほうが、練習時間が2割近く少なく済んだ(Frontiers in Sports and Active Living, 2019)
中強度そのものは悪ではありません。時間の限られる人には、むしろ効率がいいこともある。
ただし、配分を守れた人に絞ると、楽な日中心のほうが伸びていた
1つめの研究には続きがあります。決められた配分(楽な日と頑張る日の割合)をいちばん守れた少数の人に絞って比べ直すと、楽な日中心の優位がはっきりした、と報告されています。
人数の少ない分析なので強くは言えません。ただ、楽な日中心の練習は「楽な日を本当に楽に走れること」が前提になっている、とは読めます。
私は、その前提を満たせていませんでした。計画の上では楽な日だったのに、実際に走っていたのは中強度。自分が何の練習をしているのか、分かっていなかった。
なお、研究が言えるのはここまでです。2つの研究が比べているのは、決めた配分を守ろうとして走った人たちどうしで、「決めない」「決めても守れない」とどうなるかを調べたものではありません。
では、週2回の私はなぜ遅く走るのか
2つめの研究に従えば、時間の限られる私こそ中強度中心でいいはずです。それでも今は楽な日を中心にしています。
理由は、研究に参加したのがすでに走り慣れた人たちだからです。私はブランク明けで、これから長い距離を伸ばしていく時期にいます。脚が長い距離に慣れていないうちに、距離と強さを同時に上げるのは避けたい。それがAIと決めた方針です。
逆に言えば、すでに何年も走っている人なら、中強度を中心にする選択も十分ありえます。ただし、決めた日に、決めた分だけ。毎回なんとなく同じ強さになっているのとは別物です。
そのかわり、3週目からは、余裕のある週だけ「少し頑張る日」を1本入れることにしました。中強度を、決めた日に、決めた分だけやる形です。
中強度は悪くない。困るのは、楽のつもりで中強度を走っていて、それに気づいていないこと。
3. なぜ、全部が同じ強さに寄っていくのか
全部の練習が同じくらいの強さに寄っていく理由は、走る量によって違うと考えています。入り口は違っても、行き着く先は同じです。
始めたばかり・久しぶりの人:楽の基準を持っていない
今の私です。苦しくない強さを「楽」だと思っている。基準がないので、ずれていることに気づけません。
続けて走っている人:いつものコースを、いつものペースで
慣れてくると、走る道も速さも固定されていきます。時計にペースが出ていれば、無意識にいつもの数字に合わせてしまう。楽すぎず、きつすぎない、いちばん走りやすい強さ。そこが「いつもの」になりやすい。
1章に書いた、フルを走っていた頃の私も、これに近かったと思います。
たくさん走る人:疲れたまま強さを重ねてしまう
週に何十kmも走る人は、別の理由でここに寄ります。週の距離が先に決まっていると、遅く走るほど時間が足りなくなる。時間の取れない週ほど、短くて強い練習を選びたくなる。
強い練習を選ぶこと自体は、2章のとおり悪くありません。問題は、疲れが抜けないまま強さを重ねることのほうです。疲れていると、頑張る日も狙った強さまで上がらない。楽な日も楽になりきらない。結局、どの日も中途半端に強い、に寄っていきます。
気づいていないのではなく、気づいていても自分では止めにくい。これには5章で答えます。
理由は違っても、行き着く先は同じ。全部が同じくらいの強さに寄っていく。
4. 「やりたがらない練習」の意味
遅く走る練習は、どうしても敬遠されがちです。私もそうでした。LSDもイージージョグも、正直、意味があると思っていませんでした。
LSDとイージーは、目的が違う
| LSD | 楽な強さで、長い時間動き続けること自体が目的 |
|---|---|
| イージー | 短くてもいい。楽な強さを守ること自体が目的。疲れを残さず、次の練習の土台にする |
どちらも楽な強さで走る練習で、「遅いので練習した気がしない」という理由で避けられるところも同じです。
あるプロ選手の、ジョグの落とし方
アメリカのプロチームのマラソン選手が、大会の数週間前にこう話していたそうです。大事な練習が速くなるほど、ジョグは遅くなっていった。
そのときのジョグは1kmあたり約5分。数字だけ見ると市民ランナーより速いのですが、その選手が基準にしている「閾値(しきいち)」のペースより、1kmあたり1分半以上遅かったと書かれています(80/20 Endurance)。この選手は、ジョグを自分が出せる力からそれだけ落としていた、ということです。
しかもペースで決めているのではなく、毎回同じくらい楽に感じる強さで走っている、とありました。強い日を強くするために、楽な日を楽にしている。少なくともこの選手は、メリハリをはっきりつけていました。
半信半疑でやってみた
2週目の指示は「守るのは距離だけ。ペース・心拍は走行中は見ず、会話が続く速さで距離をきっちり踏むこと」でした。その日の結果です。
| 1本目(再開初日) | 1kmあたり5分46秒・平均心拍162 |
|---|---|
| 2週目の1本目 | 1kmあたり6分26秒・平均心拍147・6.2km |
6分26秒は、目安(6分40秒〜7分10秒)よりまだ14秒速い数字です。ただ2週目は、ペースではなく「会話が続くか」が基準でした。息は上がっておらず、心拍も目安の上限155に対して147だったので、指示の範囲には収まっていたと考えています。
気温も時間帯も違うので、この2つを単純に比べて「改善した」とは言えません。ただ、走った感覚はまったく違いました。
- 意外に難しい。息が上がるわけではなく、ついペースが上がってしまうのを抑えるのが大変でした
- 「イージージョグって、こんな感じか」と初めて体でわかった
- 疲れが残らない。走ったあとの予定に響かないので、すきま時間にも入れやすい
このまま続ければ効果はありそうだと感じています。ただ、数字ではまだ何も確かめていませんし、半信半疑の部分も残っています。
遅い日は、強い日のためにある。それに、生活を壊さない。
5. コーチがやっていること、AIが代われること
では、決めたとおりに走るには何が要るのか。コーチの仕事を分けてみると、AIに任せられる範囲が見えてきます。
コーチの仕事と、AIが代われるかどうか
代われる:基準を決めて照らすこと、条件に合わせること
ここは正直に書きます。私の最大心拍も、呼吸がきつくなり始める強さも、まだ測っていません。AIが出した目安は推定値です。AIが正解を知っているわけではありません。
それでも意味があったのは、先に基準を決めて、後から照らし合わせたからです。1本目のあとに「速すぎる」と返ってきて、初めて自分の感覚がずれていると分かりました。自分で決めていたら、その日の調子で基準のほうが動いて、ずれは見えなかったと思います。
紙の練習計画でも同じことはできます。AIが違うのは、照らし合わせるときに気温や睡眠まで一緒に読むところです。暑い日の心拍は割り引く、寝不足の日は数字の読み方を変える。そういう判断を、データを渡せば毎回やってくれます。走れる回数や目標に合わせてメニューを組み直すのも得意です。
代われない:背中を押すこと
AIは「なぜ走らなかったのですか」と聞いてきません。黙っていれば何も起きない。
半分だけ代われる:覚えていること
覚えることは、少しずつ得意になってきています。最近のAIは、前のチャットの内容をある程度引き継ぐ機能が標準でオンになっているものが多いです。ただ、何を引き継いだかは自分からは見えにくく、抜けることもあります。去年の同じ時期や過去の故障まで踏まえた判断を任せきるのは、まだ難しいと感じています。
止めることも、自分からはしない。ただしルールを決めておけば照らしてくれる
3章の「疲れたまま強さを重ねてしまう」人にとって、コーチに一番必要なのは背中を押す人ではなく、止める人のはずです。
AIは自分から「今週はやめろ」とは言いません。止める基準を決めるのは自分です。ただ、基準を決めておいて疲れの数字を毎回渡せば、AIがそれに照らして知らせてくれます。
私の場合は、寝ている間の心拍から出る安静時心拍と、睡眠時間を毎日渡しています。安静時心拍が直近7日の中央値より7拍以上高い日が3日続き、しかも寝不足では説明できないときは、練習を見直すと決めてあります。
だから、仕組みで埋める
私がやっているのは3つです。走った結果は毎回同じ場所に返し、週に1回、次の週を決めてもらう。記録を残しておいて、相談のたびに渡す。そして、その内容を公開する。見られていると、続きます。
AIは基準と個別化を埋める。押すは仕組みで、止めるは自分で決めたルールで。覚えるは、機能に任せきらずに記録を渡す。
6. 今日、ひとりで確かめられること
ここまで読んで「自分はどうだろう」と思った方へ。時計もAIも要らない方法があります。
次のジョグで、声に出して話してみる
たとえば「今日は朝から天気がよくて、走るのが気持ちいいです」くらいの長さの文を、ひと息で言ってみてください。小声で構いません。
最後まで言い切れたら楽な強さ。途中で詰まるなら、その日の「楽」は楽になっていません。
会話の答えが怪しくなり始める点は、呼吸がきつくなり始める強さとほぼ重なる、という研究があります(ACE)。ただし個人差は大きく、心臓病の患者を対象にした研究では、平均では合っても一人ひとりではずれることがあると報告されています(2020)。精密な測定の代わりではなく、時計なしで使える目安です。
言い切れたら、次は1週間の中で決める
走る前に「今日は楽な日」「今日は少し頑張る日」と決めてから出る。決めても感覚だけでは守れないことがあるのは、1章に書いたとおりです。それでも、決めてから出て、走りながら声で確かめれば、ずれには気づきやすくなります。
一例として、週3回なら「楽・楽・少し頑張る」。週2回なら「楽な強さで少し長め」と「楽に走って、最後だけ少し上げる」。細かい組み方は、走れる回数や目標で変わります。
会話は最初の物差し。分かってきたら時計に移る
会話で測るのは、最初の物差しとしてです。私が確認した練習の本は、楽な日も心拍やペースで管理していました。たとえば『80/20 Running』は、会話を自分の閾値を見つけるために使い、楽な日の管理には心拍を使います。
最近測った自分の閾値の心拍(ここを超えると急にきつくなる境目)を知っているなら、会話の段階は飛ばして、最初から心拍で管理して構いません。会話が役に立つのは、基準をまだ持っていない人と、基準が古くなっている人です。年齢から計算した値は推定なので、「知っている」には入りません。過去のレースのタイムから出した目安も、ブランク明けだと今の体に合っていないことがあります。
そういう人は、まず会話で「楽」を体で覚えて、そのときの心拍を記録していく。「文を話せる」ときの心拍が安定してきたら、そこからは時計で管理して、会話だけには頼らない。この順番がいいと思います。
走る前に決める。走りながら声で確かめる。分かってきたら、時計に移る。
7. 私がいま試していること(結果はまだ出ていません)
12月のハーフまでは「お試し期間」と決めました。
靴も1足に決めています。12週間の練習は、全部ノヴァブラスト5で走ります。ブランク明けなので、比べる条件を増やしたくないからです。この靴は以前、300km走ってレビューを書いています。
いま使っている目安のペースも心拍も推定値です。走っている最中はペースも心拍も見ませんが、走ったあとに心拍と、会話が続いたかどうかを照らし合わせて、目安を少しずつ動かしていきます。ハーフそのものを実測の機会にして、そこから目安を引き直します。その先は会話だけに頼らず、心拍で管理していくつもりです。
その先はフルマラソンで、サブ3.5を置いています。ただ、ブランク明けの週2回から考えると、かなり高い目標です。ハーフの結果を見て見直す前提で、届きそうになければ時期を後ろにずらします。
2章に書いた「余裕のある週だけ少し頑張る日」には、もうひとつ狙いがあります。上げたくなる気持ちに、決まった置き場所を作ることです。上げていい日があれば、楽な日を楽に保ちやすくなるのではないか。これが効くかどうかは、まだ分かりません。
結果は、よくても悪くてもそのまま書きます。毎週の指示と走った結果は、X(@runpapa06)で出しています。
今日やることは、次のジョグで声に出して話してみることだけです。
言い切れなかったら、落としてみてください。それだけで、その日の練習の意味が変わります。
そのうえで「決めてくれる相手がほしい」と思ったら、AIをコーチにする手順を別の記事にまとめています。使うAIの選び方から、条件の渡し方、うまく答えてくれないときの言い直しまで。無料の範囲でできます。
※ 痛みが出たら中止して、専門家に相談してください。
